高尾山口駅方面から車で甲州街道を西へ向かうこと約5分、街道から左手に入った細い道をくぐり抜けると、その風靡な建物は現れます。
多くの緑に囲まれ、山里ともいえそうな風景に違和感なく溶け込んでいるその建物は、今年で創業43年を迎える懐石料理店「うかい竹亭」です。
高尾山の山並みを借景とし、自然のままの広大な傾斜地を巧みに利用したお店作りは、都会で表現することは不可能な壮大さ。
季節ごとに選び抜いた食材を活かして最高の料理に仕上げることを徹底的に追求。
うかい様式と呼ばれる「非日常の空間」「何度ご来店頂いても常に喜びや感動を感じられる食空間の創造」というコンセプトのもと、物語のあるお店作りに取り組んでおられます。
八王子グルメ探訪 第16回「うかい竹亭」編では、普段WEBメディアでは詳細に取り上げられることの少ない特別空間「方丈の間」も取材させて頂き、うかい竹亭の至高ともいえる、一期一会のおもてなしの精神をご紹介いたします。(執筆:当サイト主催 佐藤秀之)
竹亭物語は駐車場の入口に入ったときから始まる
「お客様一人ひとりに物語の主人公になっていただき、非日常の空間で最高の料理を楽しんで、心から感動の時間を味わっていただく。」という、うかい竹亭のおもてなしは駐車場の入口に入ったときから始まります。
車寄せには既に従業員の方が待機しており、氏名の確認と駐車場への誘導を丁寧にしてくれました。
車を駐車場に停め、艶やかな和傘を横目に受付へ向かうと、あらためてお姉さんをはじめ従業員の方が出迎えて下さいました。
威厳のある受付の建屋をくぐり抜け、飛び石ずたいに進むと、
入口門では今回の案内役、西室真希さんがお待ちになっていました。
西室さんは、創業明治38年の呉服屋「きものの西室」の若女将で、今年1月の「はれのひ事件」では被害にあわれた方のために尽力され、「八王子成人式プレゼントプロジェクト」を企画したことは記憶に新しい方も多いかと思います。(※リンク先は東京新聞)
西室さんもうかい竹亭も、おもてなしの心を大事にするという和の精神を持たれています。
それでは、ここから先は西室さんの先導で店内を散策してみましょう。
深山幽谷の雰囲気をたたえた日本庭園へ
入口門をくぐると右手には水車小屋と池が。
水車が水を跳ねる音は規則的で、透明感のある音色は心を鎮めてくれます。
池に泳いでいる鯉を愛でつつ飛び石伝いにしばらく歩みを進めると、雅な雰囲気を漂わせた庭園が見えてきます。
さらに歩みを進めると、前方に橋が架かっているのが見えてきます。
橋は緑に囲まれ、とても清々しい空間。
橋の上から右に目をやると、草戸山方面から流れてきた川が。
南浅川に流れ込む支流の一つで、天然の川を景観として取り込んだ、自然を活かした庭園づくりをされています。
橋の上に立ち、山間の澄んだ静寂の中で木々を見上げれば、日頃忘れかけている日本文化の素晴らしさを、あらためて想い起こさせてくれるようです。
鯉が泳ぐ池や清流せせらぐ小川に、季節の花や凛と茂る竹林は、風情感じる静の贅沢の極み。
思わずため息が出そうになる極上の空間は、非日常を感じさせてくれる、まさに小旅行ともいえる貴重な体験を与えてくれます。
橋を渡ると、高尾山を借景とした浮世離れした雄大な空間が立ち現れます。
千利休が大成した茶の湯の「侘び」をテーマに竹林を臨む約2,000坪の日本庭園には、茶室や宿坊、大小含む数寄屋造りの離れが点在し、その壮大な庭園はまさに幽玄といえるものです。
茶室 む庵
昨年17年ぶりに茅葺屋根を葺き替えた二畳敷きの茶室「む庵」は、京都の臨済寺院・妙喜庵にあって唯一現在する「千利休作の茶室」として伝えられる、国宝「待庵(たいあん)」を写して作られたと言われています。
もともと仏教と茶道のつながりは深く、そこからうかい竹亭のストーリーが立ち上がってくるようです。
「む」には、「夢」「無」「霧」などさまざまな「む」があります。
訪れる人のそのときどきの気持ちに応じて、いかようにも変容するようにと名づけられました。
もともと茶道で供されるのが懐石料理で、本来茶の湯において正式の茶事の際、会の主催者である亭主が来客をもてなす料理をいい、禅寺の古い習慣である懐石にその名を由来するそうです。
永平寺周辺から移築した宿坊
福井県の永平寺周辺から移築してきたという宿坊。
宿坊のふすま仕切りのお部屋からは、移ろう日本の四季が眺められ、料理に彩りを添える景色とともに季節の美味を味わえます。
特別空間 方丈の間
今回の取材で最大の見所といえるのが、うかい竹亭特別空間「方丈の間」。
涼やかさと重厚感が増す檜一枚板のカウンターの中で、料理人がお客様だけのために匠の腕を振るうスペシャルルームです。
風靡な庭園を臨むプライベートな空間で、料理人の技を目の前に素材の焼き上がる音や香りなど、五感で感じる懐石料理を楽しめます。
カウンター奥には「美味方丈」の額が。
一説によると創業間もない頃、昭和の名優が創業者との対談の中で発した「これはまさに美味方丈だね。」という言葉が由来になっているそうです。
美味方丈とは、うかいが提案する究極の食空間。
凝縮された美味を深く感じる一丈四方の空間で、食材を育んだ土壌や気候、作り手の愛情に想いを巡らせる、幸福な時間を過ごすことを表す造語です。
この言葉は、「うかい竹亭」「八王子うかい亭」「銀座 kappou ukai」「六本木 kappou ukai」とさまざまな店舗に飾られ、うかい料理人の心に刻まれています。
美食の劇場とも形容すべきこの究極の食空間で、料理長様自らがもてなして下さいました。
うかい竹亭名物「鮎物語」
▽山口料理長プロフィール
1988年に調理師専門学校を卒業後、株式会社うかい入社「うかい⽵亭」配属。
2002年「うかい⽵亭」副料理⻑に就任、2005年「とうふ屋うかい鷺沼店」料理⻑に就任、2012年「うかい⽵亭」料理⻑に就任。
⾼尾山の麓に茶道の⼼を取り入れた「うかい懐⽯料理の料理⻑」として腕を振るう伝統を担いながら、お客様一組ごとに一期一会のおもてなしと新たな感動を追求している。
「うかい竹亭さんには『鮎物語』という鮎を使ったお料理に関する物語があるそうですが、どのようなものですか。」
「鮎物語とは、稚鮎から始まり、若鮎、成魚、子持ちの鮎となる成長過程を、お料理に重ねて表現する、うかい竹亭名物の物語のことをいいます。」
「鮎という素材ひとつをとっても、その味わいは少しずつ変化しています。活き活きとした出始めの『はしり』、油がのって持ち味が最高潮に高まった『旬』、過ぎゆく季節を惜しみながら味わう『名残』など、素材がその時々に持っている味わいを料理人の技で表現します。」
料理長の説明を聞きながら、パチパチという鮎の焼ける音やこうばしい香り、焼き色の変化も全て味わう至福のひととき。
この一丈四方の空間では「料理は五感で楽しむもの」と食材が話しかけてくるような、そんな不思議な気持ちにさせてくれます。
方丈の間は予約制で、6名様から貸切を承るとのことです。
詳しくはこちら → うかい竹亭 方丈の間
そして、方丈の間での至高のもてなしの感動も冷めやらぬまま、私達は次なる「物語」のステージとなる離れへ移りました。
数寄屋造りの離れ
数寄屋造りの離れは17室あり、予約制の完全個室となっています。
お部屋の名前は「鉄舟」「海舟」「蕪村」「博文」など、歴史上の人名に由来しているものもあり、建物もおもてなしの一つと考えてこだわった先代のお気持ちを察することができます。
しばし歴史上の人物が活躍した時代に思いを馳せたあと、私達は「海舟」へ案内されました。
茶室のあるお部屋には琴の音が静かに流れており、窓から眺めるお庭はこのお部屋専用。
これからどのような物語が始まるのか、期待が膨らみます。
季節の八寸
しばらくすると、美しく飾られた器に見た目も美しい、季節感じる八寸が人数分一緒に盛られてきました。
お部屋付きのお姉さんが「背の高いグラスには翡翠豆腐といってそら豆のお豆腐でございます。上にわさびが載っているので一緒にお召し上がり下さい。」と説明しながら、ひとつひとつ個々の皿に綺麗に取り分けて下さいます。
箸をつけて崩してしまうのがもったいなく、しばらく鑑賞を楽しんでしまうのもまた素敵な時間です。(※6月中旬までのメニューのため、記事公開時のものとは異なります。)
うかい竹亭名物 牛肉の朴葉焼き
うかい竹亭の看板料理の一つである「朴葉焼き」は、飛騨高山の郷土料理である朴葉味噌に牛肉をのせたもの。
炭火でぐつぐつと味噌が煮え、湯気が美しく立ち昇る様子は見た目にも楽しませてくれます。
頃合いを見計らい、松葉味噌をお肉と絡めて頂きます。
味噌は竹亭秘伝。たくさんのお野菜と果物、お肉などが入っているとのこと。
侘びや風流という「静」の贅沢を感じる空間で、旬の味覚とおもてなしの心を堪能できる、うかい竹亭の逸品です。
取材の最後に、なぜ飛騨高山の郷土料理を名物料理としているのか、その理由を尋ねてみました。
料理長によると30年位前、先代が飛騨高山から料理を持ってきたのが始まりで、京都の侘び寂びの世界と、飛騨高山の世界をミックスした世界観をうかい竹亭に再現したそうです。
京都により過ぎたら飛騨高山に戻す、という調整をしながらうかい竹亭の世界観を出しているため、飛騨高山の料理がたくさんあるとのこと。
凛としすぎず、温もりもあるところを整えていかれた、ということでしょうか。
うかい竹亭の「日本らしさ」は、京都と飛騨との絶妙なバランスの上に表現されていたのですね。
最後に店長様から皆様へ
6月28日から8月6日まで(2019年)の期間限定で開催される、うかい竹亭夏の風物詩イベント「ほたるの夕べ」では、お部屋の電気を全て消し、漆黒の闇の中、竹林を抜けるそよ風にのり乱舞するホタルの灯りを楽しめます。
日が沈む前の夕方にお越しになって、窓から変わりゆく景色を愛でつつ、お酒を愉しみながら、ホタルの舞う幻想的な時間を待たれてはいかがでしょうか。
詳しくはこちらをご覧ください → ほたるの夕べ
レポーターのご紹介 西室真希さん
産まれも育ちも嫁ぎ先も八王子。このまちが大好きな八王子っ子です。
11年前に八王子市横山町にあります『きものの西室』に嫁ぎ、日本文化の素晴らしさと商店街の暖かさに衝撃を受けました。
『西室さんの所の嫁さん』って響きが嬉しくて、人と人の繋がりが嬉しくて、ママ同士の繋がりが自然とできて、日本文化もママに見直して貰えるような場所を呉服屋以外に作りたい!と思い5年前に『おもちゃカフェdattochi(ダットッチ)』をopen。( HP:http://dattochi.jp/ )
ママはホッと一息、子供は楽しい。
おんぶしながら働けたり、ママがワークショップの先生になったり、ママの活躍の場所としても提供しています。
子連れで着付けサークルやお茶サークル、書道教室も主催しています。
プライベートでは男の子3人女の子1人4児のママ。
仕事も子育ても楽しみます。
うかい竹亭は、主人が父に『娘さんをください!』と申し出てくれた、人生に置いてとってもとっても大切な場所。
そんなお店をご紹介できて幸せです。
お店データ
店名:うかい竹亭
電話:042-661-8419
住所:東京都八王子市南浅川町2850
HP:http://www.ukai.co.jp/chikutei/
営業時間:
平日・土 11:30~19:30(L.O.)
日・祝 11:30~19:00(L.O.)
定休日:水曜日
ジャンル:懐石料理
最寄駅:京王線 高尾山口駅
アクセス
当サイト管理人より
八王子グルメ探訪第16回、「うかい竹亭」特集はいかがでしたでしょうか。
今回の取材を終えて感じることは、「うかい竹亭のご案内役を西室さんに担当して頂いて本当に良かった。」ということです。
西室さんにとって、うかい竹亭は「とっても大切な特別な場所」ということはお分かり頂けたと思います。
そんな特別なお店の素晴らしいお庭を背景に、素敵な写真とともに記事にできたのは、私にとってもたいへん光栄なことでした。
今年1月、はれのひ事件で被害に遭われた方のために奔走されている様子を、TVやSNSで拝見したときから、「こんな素晴らしい取り組みをされる方が私のサイトに出てくれたらいいなぁ。」という想いが膨らみ、今回お声がけさせて頂いたという経緯がありました。
さらに、私が希望する取材先であるうかい竹亭になったのも、西室さんのご尽力のおかげでした。
「いつかはうかい竹亭の取材ができたらいいなぁ。」という、2年前にサイトを公開した当初の私の願いまで叶ってしまいました。
本当にありがとうございました。
創業明治38年の呉服屋の若女将が、ミシュラン3つ星の高尾山を借景とした、歴史ある懐石料理店をご案内する。
なんと素敵な取り合わせでしょうか。
今回の記事が、西室さんにとって想い出のアルバムのようなものになれば、嬉しい限りです。
Photo by 山本ミニ子( にちにち寫眞主宰 )
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