城山手に佇むイタリア料理の銘店フィノッキオ
八王子グルメ探訪 第17回、今回ご紹介するお店は、城山手の住宅街に佇む本格イタリア料理とケーキのお店「リストランテ・ドルチオーレ・フィノッキオ」さんです。
開業から24年間に渡り、「リストランテはソースやドレッシング、料理、ドルチェ、カッフェに至るまで手作りが当たり前。」というポリシーで営業されているこちらのお店は、地元メディアに掲載されることの滅多にない、隠れた銘店の一つです。
その徹底した「手作りの表現」は料理だけでなく、建物にも表れています。
手作業で塗ったスタッコ仕上げの壁、階段には本物のテラコッタ、入り口扉にはアイアンの装飾。
テラスに伝わる窓以外は、殆どステンレスが使われていません。
階段を上がると右手に見えるテラス席には、建物に調和したオリーブやミモザ、ハーブなどの植物を植え込んであり緑がいっぱい。
もちろん、デザインはオーナーたち自身で手がけました。
ただ植物を植えるのではなく、あくまでも調和を大切にしたとのこと。
ホッとするひと時、そんな気持ちになっていただけたらという、お店の気持ちが感じられるテラスです。
今回のレポーターはフラワーデザイナーの小山美智代さん。
以前、こちらでフラワーレッスンを開催したご縁からレポーターをお願いしました。
それでは、アイアン飾りの付いたお洒落な扉を開けて店内に入ってみましょう。
中に入ると正面にはケーキのショーケースが。
個人経営のレストランでこのような設備があるお店というのもなかなか見かけません。
「本格イタリア料理とケーキの店」と謳うだけあって、このあたりにお店の本気度を感じます。
七洋製作所の「BACKEN」と「BECKER」を使用して焼き上げるケーキはどれも専門店に劣らぬ本格派。有名パティシエ御用達の逸品です。
ショーケースの後方には、こちらで小山さんがフラワーレッスンを開催した時、生徒さんだったオーナーの奥様が制作したリースが飾ってあります。お店の装飾も手造りが基本なんですね。
次に目に飛び込んで来たのがプラモデルのショーケース。
中にはイタリアの名車、フェラーリやランチアなどのスーパーカーがずらり。
オーナーの趣味で一から組み立てたものをお店に飾っているのですが、これを見に来店される男性客もいらっしゃるとか。
ノーマルの仕上がりに満足が行かないときは自分で外観を研磨して塗装するなど、細部にまで凝った作りをされているところに、オリジナリティと本物に対するこだわりを感じました。
この姿勢はきっと、お料理に対しても向けられているのでしょうね。
サンタフェの建築様式にこだわった店内
店内はスタッコ仕上げの壁にテラコッタの床、間接照明は植木鉢を半分に切って壁と一体化するなど、こちらも凝った造りをしています。
窓やニッチには100年以上前の古木を使用し、アイアンの装飾物は一部手作りのものも。
こだわりの建築様式や装飾をひとしきり拝見させてもらったあと、小山さんからオーナーにいろいろとお話をお伺いして頂きました。
フィノッキオ オーナーシェフ 永谷直彦さん
▽永谷直彦シェフ プロフィール
イタリア料理店に勤務後、洋食レストランのパティスリー部門で修行。
1994年 台町に「リストランテ・ドルチオーレ・フィノッキオ」をオープン。
9年間営業した後、2003年城山手に移転。今年で開業24年を迎えた。
信条は「目に見えないものにまで、お金と時間を使うのが本当のこだわり」。
本当に美味しいものを作るには、技術もさることながら、材料、道具、空間が大切だという。
お店のコンセプトは「お気に入りの隠れ家レストラン」
イタリア料理店には様々な種類があるのをご存知ですか。
例えば、スパゲティ専門のスパゲッテリア、ピザ専門のピッツェリア、日本の食堂や居酒屋に該当するトラットリアやタベルナなどです。
当店は前菜からドルチェ、カッフェまで楽しめるように「リストランテ」という形態をとっており、手作りのコース料理をメインに提供しています。
私のプロフィールですが、イタリア料理店で修行したあと、洋食レストランのパティスリー部門に移りました。
この洋食レストランは当時、山中湖や西湖、昭島、青梅などに出店しており、八王子にケーキを一括して作る工房があったんです。
私はここに配属され、パティスリーの修行を3年間やりました。
工房で作るケーキはアメリカンタイプなんですが、当時のシェフはフランス菓子などの結構こだわった型のケーキが好きで、プライベートや試作で作ったりしていましたね。
このシェフに、代々木上原や尾山台の有名ケーキ店に連れて行ってもらったことがあるのですが、自分たちが作るケーキと全く違うことに大きな衝撃を受けました。
それからフランス菓子が好きになったんです。
その後、ある有名ケーキ店に通いましたが、そこのケーキ教室は受講費がなんと年間120万から130万円。それでも満員でした。
プロが勉強しに行くケーキ屋なんです。
レシピを見たら細かいしお金がかかるしでやる気になりませんよ(笑)。
バターはこれじゃなきゃダメ、カシスはこのメーカー、リキュールは、、と全部指定があるんです。
間に合わせに「これを使おう」ではいいものは作れない。
一つでもいい加減な材料があると作品はダメになるということです。
お花も同じですよね?(笑)
当店ではこのときのレシピをベースとして、ずっとやってきました。
これからお料理をお出ししますので、違いを感じて頂ければと思います。
Antipasto
ペペロナータ
見た目にも美しく、丁寧に作られていることが伝わってくるのは、パプリカをマリネしたペペロナータ。
ほんのりと甘さがあって、食欲をそそられます。
カポナータ
「カポナータはイタリア南部のシチリア地方が発祥で、数種類の野菜を煮込んだ料理のこと。フランスだとラタトゥーユといいます。フランスのものは全く甘くないけど、イタリアのは少し甘い。今日はリコッタチーズを載せました。」
角切り野菜たっぷりのカポナータをカリッと焼いたパンに乗せて頂きましたが、これが素晴らしいお味でした。野菜のうまみが濃厚で甘みがあり、パンとの相性が抜群。
さっぱりとしたリコッタチーズが口中の甘うまな濃厚野菜と混ざり合い、絶妙なコラボレーションを醸し出します。
ワインと合わせたらこれだけで何杯もいけてしまいそう。
お店に来たらぜひ召し上がって頂きたいお薦めの逸品です。
Primopiatto
カルボナーラ
テーブルに置かれた瞬間、凄くいい香りがあたりに漂ったのがこのカルボナーラ。
パスタってこんなに香るんだ、と驚いた瞬間でした。
「パスタは香りが大事。作り置きではなく、注文が入ってから具材を炒めることで香りが全くちがってくる。」と永谷シェフ。
高品質な具材や作り手の細かい作業の積み重ねで、パスタひとつとっても出来上がりがこんなに違うんだとひとしきり感心。上質の料理は、外からは見えない、細かい作業の積み重ねで完成するのだと。
上質のパスタは強いこしがあり、絶妙なアルデンテの茹で具合と相まって、パスタそのものの美味しさが感じられます。
角切りベーコンとソースを絡めて頂くと、格別の美味しさ。
「これが本当のカルボナーラなんだ!」と、叫びたくなりました。
既存概念が覆され、他のパスタも全制覇したくなること必至です。
Dolce
どら焼きプリン
中央自動車道、石川パーキングエリア発祥のお土産「ぷりんどら」にヒントを得て生まれたのがこの「どら焼きプリン」。
「ぷりんどら」はどら焼きの生地にプリンが挟まっていますが、こちらはその反対で、なんとプリンの中にどら焼きが入っています。
プリンにあんこを入れるだけだとプリンの生地と混ざってしまいますが、どら焼きで挟んでいるからあんこが流れず、プリンとあんこ両方の美味しさをしっかり味わえるというのが、永谷シェフの持論。
同業のシェフが「これ銀座でやったら売れるだろうな。」と喜んでいたそうです。
ミルクレープ
レギュラーメニューではありませんが、取材時にたまたまショーケースにあったミルクレープ。
一枚一枚手焼きのクレープに大量の生クリームとバナナ・キウイ・洋梨など季節のフルーツをぎっしりと挟み込み、10段重ねにしています。
「フルーツが入ったミルクレープはありそうだけど、手間がかかるのであまり見かけない。」と永谷シェフ。
純粋な生クリームにほんの少しのカスタードを加えたクリームは、見た目よりもフワッとして軽く、ほんのりとした甘さで意外とたくさん食べられます。(※植物性油脂や安定剤、乳化剤などが入ったクリームはズッシリと重たくてお腹いっぱいになりますが。)
桃のブリュレパンケーキ
ドルチェの最後は「桃のブリュレパンケーキ」。
キャラメリゼしたパンケーキの上に八王子産よもぎのジェラートを乗せ、チョコレートとキャラメルソースをかけた「サクふわ」のパンケーキです。
脇を固める果物はフレッシュな桃。(※季節によって変わります。)
自家製ジェラートに挿してあるパリパリ物体はなんと春巻き!このあたりにシェフの独創性を感じますね。
今回の取材で「クリームもジェラートもフルーツも焦げも全て美味しい!」と取材メンバーが絶賛した極上パンケーキです。
女性の方にぜひ召し上がって頂きたいフィノッキオの傑作。
Caffe
リストランテはカッフェも手を抜きません。
本物のエスプレッソを味わってもらうため、「機材」「豆」「技術」にこだわり続けています。
「肝心のマシーンが良くなければ美味しいエスプレッソはできない。」と行き着いた機材は、エスプレッソマシーンのフェラーリと形容される「CIMBALI」。
90℃、9気圧の圧力がかかるマシーンは、業務用ならではの安定した蒸気が出るそうです。
使用する豆は、イタリアが誇るコーヒー豆のトップブランド、ムゼッティ社のパラディーソ。(特別に取材用に挽いて頂きました)
シェフいわく、ミルクの美味しさを引き出せる豆で、挽き具合と(タンパーの)押し具合で相当味が変わるんだとか。
湿度が高いときは粗目に挽いたりと、細かい調整ををして酸っぱさや苦さを出しているそうです。
このあたりは「技術」の領域なんでしょうね。
エスプレッソ
蜂蜜が垂れるように抽出されるのが理想とされていて、一気に出ると上にクレマ(クリーミーな泡立ち)が残らないそうです。
エスプレッソは砂糖を入れて完成させます。
一瞬、クレマの上に砂糖が乗っかり、ゆっくりと沈んでいくのが見ていて楽しい。
ズッケロはエスプレッソと相性抜群で、ヘーゼルナッツやアーモンドに似たフレーバーが最後に残ります。
「美味しいエスプレッソにはヘーゼルナッツ色のクレマがあります。
この泡立ちがすぐに消えてしまうエスプレッソは十分に美味しさが引き出されていません。
美味しいエスプレッソにある『クレマ』は砂糖を入れて混ぜても、すぐに消えることはありません。」と永谷シェフ。
エスプレッソ、奥が深いと感心。
カプチーノ
エスプレッソの次はカプチーノ。
今回特別にラテアートを描いているシーンを拝見させて頂きました。
「カプチーノは、エスプレッソに蒸気で泡立てたきめの細かなミルクを注いだアレンジメニュー。
基本であるエスプレッソが美味しくなければ、美味しいカプチーノの存在はあり得ません。
きめの細かいミルクのフォーミングがあってこそできる模様は、かき混ぜてもクリーミーさが持続します。」
ラテアートまでやってのける永谷バリスタ。なんでもできる方なんですね。
アンティパストからプリモピアット、ドルチェやカッフェまで頂きましたが、どれも五感に強く訴えるものばかり。
取材はこれで終わりとなりますが、高度な「技術」、高品質な「材料」、一流の「道具」の掛け算で創り出されるお料理はどれも美味しく、「本当に良いものは厳密に作られている。」という、シェフの無言のメッセージを感じた気がしました。
レポーターのご紹介 小山美智代さん
フラワーデザイナー、料理家。
幼少から母より生け花を学び、常に家には花が活けてある環境で育ち大人になる。
そんな中、この先このまま生け花を学び続けるのではなく、アレンジメントやウェディングなどのフラワーデザインを学びたいと日本でフラワー講師資格を取得し、フランスへ資格取得のため年1.2回渡航。
Parisの雰囲気、空気感が好きで今でも渡仏を繰り返している。
楽しそう!と興味を持つと直ぐに飛び付き、夢中になって学んだ結果、お花、パンやお菓子作り、クッキング…。好きではじめた趣味がそのまま仕事になっている。
形だけでなく、花のもつ美しさやエネルギーをキラキラと輝かせるようなデザイナーになれるよう日々精進中。
現在は八王子で、フラワーデザイン、パンやお菓子のスクールを運営。
ホテルニューオータニガーデンコート フラワー装飾などのディスプレイ、
東京 世田谷にあるオーダーキッチンのリネアタラーラにて 輸入機器で料理イベントを担当。
フリーズドライフラワーやドライフラワーを使用した商品を扱うEMスタイルにて制作、
新宿伊勢丹、日本橋高島屋、玉川高島屋、恵比寿三越など都内百貨店にて販売を行っている。
・ECOLE VARIE 代表
( URL: http://e-varie.com/)現在リニューアル中
・EMスタイル株式会社 副代表
( URL: http://emstyle-emi.com/)
リネアタラーラ株式会社
( URL: https://www.linea-talara.com/)
お店データ
店名:リストランテ・ドルチオーレ・フィノッキオ
電話:042-64-0809
住所:東京都八王子市城山手1-32-2
HP:http://www.finocchio.jp/
通販サイト:http://finocchio.shop-pro.jp/
Facebook:
https://www.facebook.com/finocchio.jp/
アメブロ:https://ameblo.jp/ristorante-finocchio/
営業時間:
ランチ 11:30~14:00
ディナー 18:00~21:00
定休日:火曜日
ジャンル:イタリアンレストラン
最寄駅:JR高尾駅
アクセス
当サイト管理人より
八王子グルメ探訪第17回、「フィノッキオ」特集はいかがでしたでしょうか。
取材の中でシェフが「目に見えないものにまで、お金と時間を使うのが本当のこだわり。」と話されたとき、私の脳裏に浮かんだのは「神は細部に宿る」という言葉でした。
この言葉は、ドイツのモダニズム建築家ミース・ファンデル・ローエが標語として使用していたことから広まったといわれており、「素晴らしい芸術作品や良い仕事は、細かいところを手を抜かずに仕上げており、こだわったディテールこそが作品の本質を決定する。何ごとも細部まで心を込めて行わなければならない。」という意味が込められています。
上質な材料を、最高の機材を使用し、高い技術で作られたシェフの料理。
「リストランテは手作りのコース料理があたりまえ。」と話すシェフの料理には、前菜からメイン、ドルチェやカッフェに至るまで細部にこだわりを感じられ、この言葉が想起されたのだと思います。
今回の取材で私は、「本当に良い料理は厳密に作られている。本当に良い料理は安く提供することはできない。」という暗黙のメッセージをシェフから受け取った気がしました。
もしあなたが、大手グルメポータルの評価に疑問を抱いているようでしたら、ぜひ一度こちらのお店に足を運んでみてはいかがでしょうか。
きっと、永谷シェフが満面の笑顔で迎えてくれることでしょう。
城山手に「孤高のプロフェッショナル」、フィノッキオあり。
八王子にこんな素敵なお店があることを、誇りに思います。
Photo by 山本ミニ子( にちにち寫眞主宰 )
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。