八王子グルメ探訪第21回。今回ご紹介するお店は、高尾山の森を目の前にした古民家で自家製粉の手打ち蕎麦をいただける「蕎麦と杜々」さんです。
蕎麦と杜々は「挽きたて」「打ちたて」の蕎麦を、「削りたて」の鰹節が香るつゆで楽しめる本格手打ち蕎麦店。2011年12月にオープンしました。
住宅地にひっそりと佇む隠れ家的存在ながら、お仲間やご夫婦、お子様連れからお一人様まで、こだわりのお蕎麦と癒しの空間を求めて連日にぎわいます。
レポーターは、「バランスボールで企業を元気に」をコンセプトに健康促進事業を手掛ける株式会社ReStarの代表取締役 草薙まやさん。
人を惹きつけるコミュニケーション力と多彩な才能は、活躍の場を一つにとどめず、アパレル、集客コンサルタント、トータルビューティプロデュースなど多岐に渡ります。
自らの多忙さを「息をする間もない」と笑い飛ばすまやさんを、高尾の自然に囲まれ、ほっと一息くつろげる「蕎麦と杜々」へご案内。
「杜の中で憩う蕎麦屋」を目指した心地よい空間と、こだわりの蕎麦の魅力をレポートしていただきました。
蕎麦を軸に憩う場所
高尾駅と高尾山口駅のちょうど中間あたり、甲州街道にある上椚田橋のたもとから南浅川を右手に見るように小道へ向かいます。
高尾梅郷遊歩道を向こう岸に眺めながら、200mほど進むと見えてきた幟旗を目印に左手へ。
住宅が建ち並ぶ袋小路の一番奥に、「蕎麦と杜々」はあります。
植え込みにひっそりとある石の表札に気づかなければ、ここがお店とは分からない、知る人ぞ知る、まさに隠れ家。
目前に迫る高尾山の木々に圧倒されながら、石段を進み、青い麻の暖簾をくぐります。
木造の平屋を一軒丸ごと改装した店内は、暖かい光と木のぬくもりにあふれたくつろぎの空間。
風がそよ吹くウッドデッキの先に目をやると、かつての住人が愛でていたという椿や梅の古木、苔むす石灯篭がある庭が、静かに迎え入れてくれました。
「森の中でほっと一息、くつろげる蕎麦屋にしたかったんです」と話すのは、店主の石井智也さん。
蕎麦に魅了されるようになったのは、30代後半のこと。
中華食材の製造業から蕎麦屋に転職したのがきっかけだったそう。
「それまでは、蕎麦を食べる機会はあまりなくて。単なる生計を立てるための仕事のはずだったんですが、師匠や先輩方の仕事ぶりをみて、いいなと思うように。蕎麦の研究のため、いろいろな蕎麦屋を巡るようになってからは、奥深さにどんどん魅了されました」。
探求したい気持ちは、蕎麦の味だけではなく、店構えやコンセプトなどにも及び、いつしか自分の店へのイメージが具体的になっていったと言います。
目指したのは、訪れた人がゆっくりとくつろぎ、憩う場所。
「うまい蕎麦を中心に、人や物事がつながっていける、そんな蕎麦屋でありたい」と。
そんな石井さんの思いが伝わってくる居心地のいい空間は、思い切り深呼吸をして心を開放したくなる場所を作り出しています。
<石井智也さんプロフィール>
相模原市出身。
学校卒業後、ラーメンや餃子の皮など中華食材の製造会社に勤務。
退職後、知り合いの誘いで蕎麦店に転職。
蕎麦の魅力と店舗プロデュースに興味を持つ。
研究のため、全国各地の蕎麦店巡りをしたのち、2011年3月に退職。
同年12月に蕎麦と杜々をオープン。
プライベートでは、二児の父。
映画『ニューシネマパラダイス』の主人公トトに、御子息が似ていたことから店名にも採用したというエピソードも。
“挽く・打つ・削る”で始まる一日
石井さんの一日の始まりは、朝は5時、庭先にある蕎麦打ち部屋で蕎麦を挽くことから始まります。
「蕎麦の産地は新潟県産を中心に、北海道産などをブレンドしています。
蕎麦の収穫期は、ちょうど台風の影響を受けるのでその年によって出来が大きく変わるから。納得できる風味を出すため、独自にブレンドしています。」
最も時間を割くのが、挽いた蕎麦粉を篩にかける作業。
「蕎麦の実の真ん中の部分を使いたいので、外側の部分を取り除くために、何度も篩にかけるんです」と。「蕎麦屋の一番大変な仕事」と語る凛とした口調に、蕎麦に対する真摯な姿を感じました。
石井さんの蕎麦は、食感と蕎麦の香りのバランスが抜群。
その秘訣は、蕎麦粉の割合と季節によって変える切り方にあると言います。
「うちは、“九割蕎麦”なんです。十割蕎麦よりつるっとして食感がよく、二八蕎麦よりも蕎麦の香りが引き立つから。
蕎麦の旨味を最大限感じていただくために、季節によって切り方も変えています。
暑い夏場は、喉の奥で風味を感じてほしいので喉越しよく、細めに。
秋を感じるようになり、新蕎麦の季節を迎えるころには、噛みしめて味わっていただきたいので太目にしています」と。
おいしさを追求するこだわりが、人気店への秘訣だと感じました。
鮮度へのこだわりは蕎麦つゆにも。
「蕎麦つゆに使う鰹節も毎朝削り、削りたてを使っています。
蕎麦も、鰹節も、空気に触れた瞬間から酸化が始まってしまいますから。
一番うまい状態で召し上がっていただきたいので、鮮度を大切にしています。
天ざるの天ぷらも、作り置きは一切せず、注文を受けてから揚げています。
平日は一人でやっていますので、お待たせしてしまうこともあるのですが、これが私のこだわりです。」
これからの杜々
新型コロナウィスルの感染症対策で、休業やテイクアウトでの営業、営業時間の短縮など余儀なくされた2020年。これからの蕎麦と杜々について、伺いました。
「こうなくちゃいけない、ということは自分の中で決めないようにしています。
変化があれば、それに応じて変わっていければいいので。
“蕎麦と杜々”の名前を考えたときも、トトという音の響きや杜(もり)という漢字で付けましたが、実は、何が入ってもいいと思っています。
“蕎麦と高尾の空気” “蕎麦と音楽”とか、お見えになったお客様がお感じになったことでいいんじゃないかなって。
私にできることは、誠意をもっておいしい蕎麦を作り、お客様に尽くすということ。これさえブレなければ、蕎麦と杜々は進化し続けられると思っています」と。
取材を終えて
蕎麦と杜々の居心地の良さは、自然の癒しや店構えだけではなく、蕎麦作りへの真摯な態度と自然体でいる石井さんのお人柄もあいまって成し得ているものと肌で感じるひと時となりました。
今回いただいた天せいろ蕎麦は、季節のお野菜がカラッと揚がり野菜の旨味が凝縮。
蕎麦の実と焼き塩を混ぜた石井さんオリジナルの塩を付けると、風味が一層増し、感動しました。
ボリュームもあり、育ち盛りの高校生の息子たちにも食べ応え十分。
季節ごと、時代ごとに進化し続ける蕎麦と杜々にまた来たいと思います。
レポーターのご紹介 草薙まやさん
1979年東京都生まれ。
9歳の時に父を病気で亡くし、女手ひとつで育てられる。
美容専門学校卒業後、テレビ制作会社に就職。
結婚退職後は、育児の傍ら手作りの子供服を店舗・ネット販売。
2015年、メンタルを患った母親の看病のために食事療法・運動療法を学ぶなか、年齢に関係なくできる運動としてバランスボールに出会う。
その後も「外からのアプローチ」として筋膜や整体などを、「内からのアプローチ」としてメンタルヘルスやアンガーマネジメントなどを学び続け、これまでに取得した資格は多数。
自らの経験を社会に還元するため、2019年 株式会社ReStarを設立。
健康促進事業、タレントマネージメント事業、集客コンサルタント事業、ブランドアパレル事業、トータルビューティ事業を手掛ける。
プライベートでは、小学生から高校生までの4人の子どもを育てるシングルマザー。
公私ともに多忙な毎日を、自ら習得した『気持ちを整える術』を武器に全力疾走中。
お店データ
店名:蕎麦と杜々
電話:042-673-5592
住所:東京都八王子市高尾町2031
HP:http://www.soba-toto.com/
Blog:http://blog.soba-toto.com/
Facebook:@takao.soba.toto
Instagram:@sobatototo
営業日&時間:月曜日~日曜日11:00~15:00
※コロナ感染症対策のためランチのみ営業
定休日:火曜日
ジャンル:蕎麦
通年メニュー:もり蕎麦、かけ蕎麦、天ざる蕎麦、とろろ蕎麦(温・冷)
季節メニュー:季節の野菜の活かしたメニュー(9月~秋ナスと空心菜のつけ汁蕎麦)
アクセス
最寄駅:高尾駅(JR中央線・京王高尾線)または高尾山口駅(京王高尾線)当サイト管理人より
八王子グルメ探訪 第21回、「蕎麦と杜々」特集はいかがでしたでしょうか。
みなさんには天気が良い日に行きたくなるお店ってありますか?
私は天気が良いと、つい杜々さんに行きたくなってしまいます。
その理由は、おそらくこちらのお店のロケーションにあるのではないかと想像します。
高尾駅方面から甲州街道を車を西に走らせ、両界橋を渡るとき左手に川の流れを楽しみ、次の橋を渡ったところで右折して細い道路に入ります。
曲がると細い道からは右手に川、前方には裏高尾の山々を望むことができ、それはそれは気持ちの良い空間が立ち現れます。
例えて言うなら、「絵葉書に描かれていそうな景色」でしょうか。
景色を楽しんだ後は記事でご紹介したとおり、「高度に編集された空間」で蕎麦を五感で愉しむ。
このように、蕎麦と杜々のサービスは、単に「蕎麦を食べに行く場所」を提供するのではなく、その本質は「束の間の小旅行」を提供することにあるのではないかとイマジネーションが膨んでゆきます。
蕎麦と杜々。
あなたも天気が良い日に、束の間の小旅行を楽しんでみてはいかがでしょうか。
Photo by 山本ミニ子( にちにち寫眞主宰 )